あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 もうだめだ。

 これ以上、彼を好きにならないうちだ。 
 後になるほど露見した時の傷が大きすぎる。
 話してしまえ。

「…………私、自分の家に火をつけたの」

 言ってしまった。
 とても彼の目を見られない。

 もう、慎吾は自分には手を差し伸べてくれないだろう。
 自分だけでなく、慎里も捨てられてしまうのだろうか。

 俯いてしまった彼女を、じっと観察していた慎吾はやがて静かに口を開いた。

「里穂。君を見ていると贖罪は十分に思える」

 違う。
 両親を失意と貧困の末に死なせてしまった。

「そんなことないっ」

 悲鳴のような声がでて、里穂はハッと口を手で抑えた。 
 
 慌てて息子を見れば、慎里は目を丸くして自分を見ている。

 慎吾は息子に安心させるように笑いかけてやってから、里穂にささやいた。

「もし君に罪があるのなら、俺も一緒に罪を償う」

 思いもかけぬ言葉に目を見開いた。

「……何を、……言ってるの……」
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