あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 風呂の時間になると、また慎吾が慎里を入れてくれる。
 彼も疲れているから日替わりで、と提案したが。

「里穂はゆっくりしておいで。俺はその間、慎里に言い聞かせることがある」

 男同士の話という奴だろう。
 言葉がわからない子供になにを言い聞かせるのか。
 慎吾は意気揚々としていた。
 二十四時間以上一緒に過ごして『慎里の父親』という役割を気にいったらしい。

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 悪いと思いつつ、一人の時間を満喫する。

 慎吾が取り寄せてくれたものの中には、里穂専用のバスケアグッズも含まれていた。

 どれも彼女の好みばかり。

 大好きなフローラルのボディーシャンプーを使って、里穂は至福の時間を過ごした。

「はあ……気持ちよかった」

 ほっこりしながら浴室を出、二人のいるリビングに向かおうとした。

 すると、ボソボソと慎吾の声がする。

 電話中かな。だったら遠慮しようと思っていると、だんだん耳が慣れて聞き取れるようになってきた。

「おとーさんは慎里のおかーさんがだぁーい好きなんだ」

「お?」

 こっそりリビングを窺いみるとソファの上で慎吾が慎里の腋に手を入れて同じ目線で話しかけている。
< 89 / 229 >

この作品をシェア

pagetop