【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第113話】

事件から3日後の8月9日のことであった。

武方《たけかた》さんは、あいつがケーサツのテッポウで撃ち殺されたので、裁判所に申し立ていた調停を取り下げた。

その日の夕方頃、空路羽田経由で高松ヘ帰った。

その日の深夜11時過ぎであった。

バイトを終えてマンスリーマンションの部屋に帰宅したアタシは、パジャマに着替えずにそのまま眠った。

毎晩、アタシは思い出したくもない夢を見た。

アタシは、小さいときから三原市の実家の家族とは気持ちの上で親子きょうだいの関係がうすれていた。

アタシは、小さい時からひねくれてばかりいた。

周囲の子供たちと調和がとれなかった…

親しい友人は、ひとりもいなかった。

家に帰宅した後、宿題を済ませると家の中で本を読んで過ごした。

心配になった母がアタシを地域の学童クラブへ連れて行った。

母はアタシに対して『空いている時間は学童クラブへ行って、お友だちと仲良く過ごしなさい!!』と命令口調で言うたあと、むりやり入れた。

母に命令されて学童クラブに入ったアタシは、子供たちと楽しく過ごすどころかもめ事ばかりを繰り返した。

いつ頃だった覚えてないけど、童話の読み聞かせの時にアタシは世話人さんにすごんだことがあった。

アンデルセン童話の『みにくいあひるの子』の読み聞かせの時であった。

話が終わりに近づいたとき、アタシは絵本を読んでいる人に対して『きれいごとばかりを言うな!!』と凄んで行った。

絵本を読んでいる人は『みにくいあひるの子がまた元のあひるの両親のところへ戻ったらまたいじめられるのよ…』とアタシに言い返した。

アタシは『置き去りにした白鳥さんをお母さんなんて呼べないわよ!!』と言うた。

絵本を読んでいる人は『みんなが聞いているのだから静かに聞きなさい!!』と怒ったあと絵本を再び読み始めた。

思い切りブチ切れたアタシは、となりに座っていた男の子の左目の下をグーで殴って大ケガを負わせた。

その後、学童クラブの子供たちとドカバキの大ゲンカを起こした。

少なくとも数人の子供たちに大ケガを負わせた。(うち一人は死んだ…)

クラブ内で殺人事件を起こしたアタシは、三原市内の別の小学校に転校した。

この頃から、勝手なことばかりをするようになった。

中学に進学した後も、暴力事件を繰り返すなど…心のすさみがひどかった。

中学二年の時、楽しみにしていた関西への修学旅行が父のノミ代が高額になったことが原因で行くことができなかった。

それに激怒したアタシは、家出した。

家出したアタシは、福山市中心部でヤクザの男たちと乱闘事件を起こしてケーサツに逮捕された。

シンシンソウシツでシャクホウされたが、親きょうだいと不仲になった。

このため、アタシは河内町《こうちちょう》(東広島市)で暮らしているエンコの家へ移った。

中学の残りの期間は、町内にある公立中学で過ごした。

中学を卒業したアタシは、エンコの家を出て東京ヘ行った。

蒲田《かまた》にある零細工場《こうじょう》で住み込みで働きながら通信制高校ヘ通った。

通信制高校を卒業したあと、零細工場《こうじょう》をやめた。

その後、アタシは川崎のソープランドとファッションヘルスの2つをかけもちしてお金を稼いだ。

女ひとりで生きていくと訣意《けつい》したが、実家の両親の自己都合《ジコチュー》が原因でアタシの人生が狂った。

その結果、9度の離婚と再婚を繰り返した。

その時暮らしていた家庭《いえ》は全部壊滅した。

もうイヤ…

女の幸せは結婚して子を産み育てることしか知らない生き方なんか絶対イヤ!!

家族の中で、おとーさんはものすごくダイキライ!!

なにが家族のためにせっせと働いた人よ!!

うそつきのおとーさんなんかダイキライ!!

アタシは…

あの日のことを…

今でも覚えているわ…

あれは…

アタシが中学1年の夏だった…

母が父に対して…

より強い不満をぶち曲げた…

(回想)

「あなた、とし子の人生設計を真剣に話し合う時間を作ってよ…進学をする高校とか、将来はどんな職種の仕事がしたい…と言うのを真剣に話し合ってよ!!」
「しんどい…あとにせえ…」
「いつになったらお話しするのよ!?」
「ワシが疲れていない時にせえや…」
「あなた!!」
「うるさい!!あさっての納期までに仕上げなければならない仕事のことで頭がいっぱいなんだよ!!とし子の人生設計の話はあとにせえ!!…甘ったれクソバカ従業員たちのせいで、納期が遅れそうになっている…工場の従業員たちはナマケモノだからイラつくのだよ!!『休みくれ』『ボーナスほしい』『結婚相手がほしい』『お見合いイベントしてくれ』『カネだカネだ…』…と言うからワシはうんざりだ!!特に若い従業員たちは自由と権利ばかり主張しているから、虫ケラ以下の役立たずだ!!ああ言うやつは陸上自衛隊《ジエータイ》ヘ転職したらいい!!おカネがたまる!!資格取らせてもらえる!!運転免許《めんきょ》を取らせてもらえる!!医者の治療費などゼーンブ無料…一生国からの恩恵を受けることができる…あした、グタグタ言う従業員たち全員の入隊手続きを取りに行く!!…ナマクラ従業員らは根性が全くない甘ったれだ!!」

父は、工場の従業員たちをナマケモノ呼ばわりしてボロクソに言うたあと、フスマを思いきりピシャッとしめた。

そして翌日…

父は、工場の若い従業員さんたち全員を陸上自衛隊《ジエータイ》にぶち込んだ。

ぶち込まれた若い従業員さんたちは、その後も陸自で陸士として働いている。

深夜3時に目を覚ましたアタシは、ぼんやりと天井を見つめながらつぶやいた。

アタシは…

白鳥さんになれなかったみにくいあひるの子…

アタシは…

三原の実家の両親の子供じゃない…

アタシは、そんなことをつぶやきながらほがそ(グチャグチャ)の髪の毛を右手でかきむしった。

8月25日の夕方6時前のことであった。

恐ろしい雷鳴がとどろいた後、激しい雨がドザーと降りだした。

ファミマのバイトを終えたアタシは、裏口から出てマンスリーマンションに帰るところであった。

レモン色のTシャツとボブソンのジーンズ姿で赤茶色のバッグを持っているアタシは、JRあいの里教育大駅まで歩いた。

その時に、降り悪く竹宮《たけみや》と会った。

この時、アタシの身の危険がすぐそこに迫っていた。

竹宮《たけみや》は、おそろしい表情でアタシに迫った。

お願い…

やめて…

アタシが悲鳴をあげようとした時であった。

竹宮《たけみや》を探し回っていた5~6人のチンピラたちが現れた。

「アニキィ!!」
「竹宮《たけみや》!!」
「オドレ死ねや!!」

(ズドーン!!ズドーン!!ズドーン!!)

やくざの男は、トカレフで竹宮《たけみや》を撃ち殺した後その場から立ち去った。

倒れた竹宮《たけみや》は、アタシに対して『裏切ったな…』と言うたあと即死した。

アタシは、ヤクザの男たちに撃ち殺された竹宮《たけみや》を冷めた目つきで見つめた。
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