【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第38話】

9月8日の夕方頃であった。

アタシは、伊予三島中ノ庄町《みしまなかのしょうちょう》の国道バイパス沿いにあるサンクスのバイトを終えたあと、駅前にあるマンスリーアパートへ歩いて向かった。

赤茶色のバッグとサンガリアのラムネチューハイの500ミリリットル缶が3本入っているレジ袋を持っているアタシは、フジ三島店の前で桂一郎さんと再会した。

桂一郎さんは、アタシに『話がある…』と言うたあとアタシを近くにあります三島神社へ連れて行った。

ところ変わって、神社の境内《けいだい》にて…

アタシと桂一郎さんは、こんな会話をしていた。

「不起訴…どうして不起訴になったの?」
「心身喪失状態《しんしんそうしつ》だよ…措置入院《びょういんへいけ》と命ぜられたけど…メンドウだから…知人の家を転々としていた。」
「今は…どこで暮らしていているのよ?」
「高校時代のダチの家。」
「そう…それよりもあんた、アタシに話があると言うたわね。」
「もちろん…真佐浩《ムシケラ》のことや…真佐浩《ムシケラ》のことについては、興信所に調査を頼んだ。」
「興信所を利用した?」
「ああ…真佐浩《ムシケラ》の正体を知りたいか?」
「知りたいわよ。」

桂一郎さんは、あいつの過去をアタシに暴露した。

「真佐浩《ムシケラ》が徳島県議会の議員になった動機は…会社勤めがイヤだった…と言うこと…真佐浩《ムシケラ》がかつて勤めていた職場の人間から聞いた話だけど…真佐浩《あのバカ》は、与えられた仕事に対して口々に文句を言いまくる…職場の上司や目上の人に対してもショッチュウ口答えをしていた…勤務態度も極悪《さいあく》だよ…そんなクソバカ男が県民のために汗を流して働くなんて、できるわけがない…あのクソバカは、安月給で事業所で働くよりも議員さんの方が大金が入ると思い上がっていたのだよ!!」
「ねえ桂一郎さん、あいつは他にもトラブルを起こしていた可能性があるの?」
「あるよ!!真佐浩《クソバカ》は女とのもめ事をよぉけ抱えていたよ!!…妊娠さわぎを含めてな…」
「妊娠さわぎ?」
「ああ…女のもめ事はすべて妊娠さわぎに発展している…あと、やくざに焚き付けて行った事件もよぉけ抱えているからな。」
「もう分かったわよ…話変わるけど、アタシが知りたいのはDVのことよ!!アタシはあいつから暴力を受けたのよ!!…と言うことは、アタシの前の嫁さんにもきつい暴力をふるっていたと言うことになるのよ!!」

アタシの問いに対して、桂一郎さんは『ああ、そのとおりだよ。』と答えたあと、アタシに言い放った。

「真佐浩《クソバカ》が犯したDVの前科については、興信所からの調査結果でこう書かれていた…前妻は、真佐浩《クソバカ》から受けたDVが原因で亡くなった…当時3歳だった連れ子の長男がお母さんを亡くしたショックで…病死した…とね。」
「それって、あいつは子供にまで暴力をふるっていたと言うこと?」
「その通りだよ。」
「どう言うことよ?」
「原因は…前のお嫁さんの連れ子の長男のお受験であった。」
「お受験…アタシの前のお嫁さんって…教育ママだったと言うの?」
「その通りだよ。超がつくはぐいたらしい教育ママだよ。学歴は愛光《アイコー》(私立中学高校・松山市)をトップの成績で卒業して、超一流の大学卒業だよ…スコットランドの大学に交換留学で行った…ダントツトップの成績で博士号まで取った…大学院まで行ったけど、そこでダラクした…大学院で知り合った男と関係を持った…そのあげくに捨てられた…その時に、胎内に小さな生命を宿していた…」
「もしかして…」
「言わなくてもわかるだろう!!」

桂一郎さんは、なおもアタシにこう説明した。

「としこさんの前のお嫁さんは、わが子のお受験のために大金をヤミ金から借り入れたのだよ!!そうまでして、幼稚園から大学あるいは大学院までエスカレーター式の私立の学園に行きたかったんだよ…だが、お受験は残念ながら大失敗に終わった…借り入れた大金は、金利がメチャメチャ高かった…とてもとは言えないがやりくりができない…そうなれば今度は子役タレントしかなかった…オーディションを受ける受けないで大ゲンカになった…そして…真佐浩《クソバカ》は、嫁さんに対してシツヨウに暴力をふるったあとゴルフクラブで頭を思い切り殴って殺した…大パニックにおちいった真佐浩《クソバカ》は、両親に助けを求めた…そして…家族ぐるみでインペイ工作をした。」
「それで?」
「亡くなった嫁さんには、死亡時に支払われる1億円の生命保険金があった…あとは言わなくても分かる…これで分かっただろ…真佐浩《クソバカ》のほんとうのことがよ…」

桂一郎さんからの問いに対して、アタシは『ええ、何となく…』と答えた。

桂一郎さんと別れたアタシは、駅前にあるマンスリーアパートに帰宅した。

赤茶色のバッグとレジ袋をテーブルの上に置いた後、ざぶとんの上に座って、白のブラウスとデニムのスカートを脱いだ。

白のブラジャーとショーツ姿のアタシは、レジ袋の中からサンガリアのラムネチューハイの500ミリリットル缶を一本取り出した。

(プシュ…ジュワー…)

アタシは、フタを空けてゴクゴクとのんだ。

アタシは、桂一郎さんが話していたことを思い出した。

あいつが前妻にふるったDVが原因で亡くなった後、義父母がインペイ工作で遺体を美波町《みなみ》の山中に遺棄した…

もし、ひとつ間違っていたら…

アタシも…

…と思うだけでも恐ろしくなった。

イヤ…

思い出したくないわ…

この時、アタシは高松で暮らしていた時にひろむの父親からシツヨウにレイプされたことを思い出した。

他にも、壬生川《にゅうがわ》で暮らしていた時に桂一郎さんの末の弟に浴室をのぞかれたあと衣服を脱がされて犯された…

イヤ…

思い出したくもないわ!!

やめて!!

ますます怖くなったアタシは、右手で髪の毛をくしゃくしゃと思い切りかきむしった。

アタシは、レジ袋の中に入っていたサンガリアのラムネチューハイの缶を全部取り出した。

そして、フタをプシュッと空けて一気にゴクゴクと全部のみほした。

アタシは…

この先どうやって生きて行けばいいのよ…

ますます分からなくなったわ…
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