【一気読み改訂版】とし子の悲劇

【第86話】

それから7時間後のことであった。

あいつの実家で事件が発生した。

兄《おにい》の夫婦の4歳の長女が行方不明になった。

兄《おにい》と嫂《おねえ》は大パニックにおちいった。

義父母は、たったひとりのかわいい孫が行方不明になったので、ひどくうろたえた。

「(兄夫婦の長女)が行きそうなところは全部あたったのね…」
「かあさん、ぼくらはあちらこちら手を尽くして探し回ったよ…なのに、(兄夫婦の長女)は見つからないよ…」
「あなた、どうしましょう…」
「こうなったら、警察署に捜索願いを出すより他はないか…かわいい孫が行方不明になっている以上はいたしかたない。」

兄《おにい》は、警察署の生活安全課に娘の捜索願いを出した。

しかし、まる3日経っても警察署から知らせが来ない…

家族のイライラは、日増しに高まった。

そんな中で、新たな事件が発生した。

10月6日の深夜11時頃であった。

阿南市中林町《しないなかばやしちょう》の漁港の岸壁で、急発進した白のワンボックスカーが海に転落した。

(キキキ!!ドボーン!!)

白のワンボックスカーは、そのまま海に沈んだ。

転落した車に兄《おにい》と嫂《おねえ》が乗っていた。

翌朝、サルベージ船によって車が引き上げられた。

車内にいたふたりは、亡くなった。

ワンボックスカーが引き上げられた後、徳島県警《けんけい》の捜査1課の刑事たちと鑑識警察官たちによる現場検証が行われた。

車の中から、嫂《おねえ》が書いたと思う手書きの遺書が発見された。

もしかしたら…

兄《おにい》と嫂《おねえ》は…

長女が行方不明になったことを苦に自殺したのか?

事件からの2日後に、深刻な事件が発生した。

この日、才見町《さいけんちょう》の家にあいつがけいこさんを連れてフラりと帰ってきた。

話し合いの席には、あいつとけいこさんと義父母と武方《たけかた》さんがいた。

あいつは、けいこさんと再婚することを認めてくれと武方《たけかた》さんに言うたら。

「オレ…けいこと再婚する…短大生の長女が亡くなった悲しみをいやしてあげたいのだよ…この通り…オヤジ、オフクロ…認めてくれよぉ…けいこの胎内に…赤ちゃんがいるのだよ!!4ヶ月だよ!!」

あいつの言葉を聞いた義父母は、ひどくオタついた。

武方《たけかた》さんは『ダメだダメだ!!私は認めない!!』と言うてあいつに言うた。

しかし、あいつはクソナマイキな声で武方《たけかた》さんに言うた。

「とし子は弟とやらしいカンケーを持っていた…さおりはオヤジとやらしいカンケーを持っていた…とし子とさおりは壊れたおもちゃだから用はねえのだよ…」

けいこさんも、クソナマイキな声で言うた。

「そうよ…とし子とさおりはいやたい女よ…あんたがどう言おうと、アタシとひろみちは夫婦よ…みとめなさいよ…みとめないと、やくざ呼ぶわよ!!」

けいこさんからイカクされた武方《たけかた》さんは、仕方なく再入籍を認めた。

その様子を家の庭に隠れていた田嶋組《たじま》の構成員《チンピラ》たちが聞いた。

「オイ、急いで竹宮《アニキ》に報告しろ!!けいこが竹宮《アニキ》を棄《す》ててこの家の伜《クソ》と結婚するだと…許さない!!」
「すぐに行ってめいりやす!!」

もうひとりの構成員《チンピラ》は、足早に家から出たあと竹宮《たけみや》のもとへ向かった。

あいつとけいこさんが再婚したと言う知らせは、竹宮《たけみや》の耳に入った。

構成員《チンピラ》からことの次第を聞いた竹宮《たけみや》は、思い切りブチ切れたようだ。
< 86 / 135 >

この作品をシェア

pagetop