アンコール マリアージュ
これが恋の瞬間ですか?!
「お呼びでしょうか?」

そう言って真がデスクに近付くと、社長は笑顔で頷いた。

「ああ。明日発売のドリーム ウェディングが届いた。見てみなさい。見開き6ページの特集が組まれている」

真は雑誌を受け取り、開いてあるページに目を落とす。

大きな写真がふんだんに使われており、あの日のガーデン挙式や披露宴の様子、そして笑顔で新郎新婦に接する真菜の姿が掲載されていた。

「当初は、この次の号に載せるはずだったが、急遽秋の特別号に間に合わせたらしい。それだけ良い記事だと、先方も判断したのだろう。私もじっくり読んでみたが、素晴らしいな。こんなにも感動的な挙式がうちで行われているなんて、驚いたよ」

はあ、と真は相槌を打つ。

「なんだ?俺がこんなに感激しているのに、お前は妙に冷めてるんだな」
「いえ、そういう訳では…」
「今回は、お前と真菜さんに感謝して労おうと思っているのだが。彼女は何か希望があるだろうか?特別手当とか」

真は雑誌から顔を上げた。

「いえ、彼女はその様な事は望んでいません。彼女は常に、ただひたすら真摯に、誠意を持ってお客様に向き合っているだけです。今回の事も、特別何かをした、とは思っていないでしょう」

ふーん…と言いながら、社長はデスクの上で両手を組む。

「あの取材の日から半月経つが、お前がずっと塞ぎ込んでいるのはなぜだ?俺はてっきり、取材が上手くいかなかったのかと思っていたのだが、こんなにも良い記事にしてもらっている。何が不満なんだ?」
「不満だなんて、そんな。それにあの日は、挙式も披露宴も素晴らしいものでした。取材を受けた時の、記者の方の反応も良かったです。良い記事にしてもらえると、確信していました」
「ますます分からんな。ではなぜ、お前はそんなに落ち込んでいる?」
「落ち込んでなど、そんな事は…」

真はうつむいて小声で答える。

「そうか。では、真菜さんを食事にお誘いしなさい。せめてものお礼にな」

えっ!と、真は驚いて顔を上げる。

「どうした?それくらいするのが当然だろう?」
「それは、そうですが…。彼女も仕事が忙しいと思いますし…」
「ふっ、そんな事を言うなんてお前らしくないな。まあいい。すぐにとは言わない。だが必ず彼女にお礼をするのだぞ?我が社の1番の功労者だからな」

真は、仕方なく、はいと頷いた。
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