紫陽花が泣く頃に
3 記憶の中の太陽
頭がいい男は、隙がないように見えるから好きじゃない。でも小暮は隙だらけだ。いつかその隙間から侵入してきた雨によって、溶けてしまうんじゃないかと思うほど脆くもある。
――『なんで……そのシャーペンを柴田が持ってんの?』
そんな泣きそうな顔で、私に言わないで。
公園を出て三時間が過ぎていた。私はその質問に答えることなく、そのまま逃げた。当然行く当てもないので、家のドアに寄りかかりながら膝を抱えているところだ。
「うわっ!」
暗闇で座り込んでいる私を見て、お父さんが叫んでいた。……よかった、やっと帰ってきてくれた。
「お父さん、お帰りなさい」
「た、ただいま……って、ここでなにしてるんだ?」
「鍵穴がバカになっちゃって、家に入れなかったんだよ」
「え!」
運よくお父さんが帰ってくる日で本当によかった。じゃなかったら私は数日間、路頭に迷うことになっていたかもしれない。