オムライスは甘口で


 期待に胸を膨らませた翌週の金曜日のことだった。

 店の中に入ると厨房に真紘の姿が見当たらず、代わりに知らない壮年のコックが立っていた。真紘がいないなんて、通い出してから初めてのことだった。
 美雨は思わずいつものホール店員に真紘の所在を尋ねた。

「え、真紘さん辞めたんですか?」
「ええ、次の仕事があるからって。まあ辞めたといっても……」

 真紘が辞めたと聞かされ、目の前が真っ暗になった。美雨の耳にはホールの女性の声も聞こえなくなっていた。

 ……真紘との唯一の接点が失われてしまった。

「お待たせしました。オムライスです」

 あれだけ食べたいと望んでいたオムライスだったが、今は食欲は皆無だ。それでもなんとか胃の中に流し込んでいく。

 美雨はすっかり気落ちして、よりどり亭を後にした。

(こんなことなら連絡先を聞いておけばよかった……)
 
 関係を深めるのに及び腰になった結果、何も始まらない内に終わってしまった。
 美雨は今にも泣き出してしまいそうだった。

< 17 / 23 >

この作品をシェア

pagetop