誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
𓆸𓆸𓆸
「おれの言うことが聞けねーの?俺に逆らえる権力、お前は持ち合わせてないと思うんだけど」
この人は、みんなの神様じゃない……。
わたしからしてみれば、史上最悪の、血も涙もない冷酷無慈悲な皇帝だった───。
「───あ、言っとくけどお前、おれに命握られてるから」
「だからたーっぷり、おれを満足させてね」
にっこりと綺麗な弧を描いた妖艶な唇。
突き刺さる氷河よりも冷たく冷酷無慈悲な、感情の読めない漆黒の瞳。
それは、逸らしたくても逸らせないあまい甘い罠。
誰も愛さない。誰も愛せない。
だけど、誰よりも他人の温かさを求めている。
本物の愛に飢えた皇帝は、今日も無気力にこの世を生きる。
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15代目・霜蘭花派皇帝
飛鳥馬 麗仁
-あすま りと-
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そんな本物の愛を探していた皇帝の元に、なぜか突然、何の価値も魅力もない庶民であるわたしが指名された。
「わたし、本物の愛をくれる人でなきゃ、満足出来ません」
「……へぇ?そんなこと、お前ごときが言っていいとでも思ってんの?」
ナイフのように冷たい視線と、愛のない口調。
「おれはもう、お前しか見てねーんだけど」
───だけどこれは、わたしが探し求めていた運命の出逢いなんかじゃない。
こんな愛のない関係なんて、もういらない。
だけどわたしは、このすべてを呑み込むほどの暗く深い闇色に包まれた瞳から目を逸らせない。
「おれ、彩夏がいないともう生きていけない」
「おれはお前が死んでも生まれ変わっても、一生離しやしねぇよ」
「───だから早く、おれに溺れろ」
その言葉に心が揺れ動かされた時。
何も映していないようで本当は誰よりも
純粋なその漆黒に
甘く、熱く、溺れる。
執筆開始❀7月26日
皇帝は今日も、痛いほどに忠実な想いに身を任せ、
危険な愛に酔いしれる。
──永遠の純粋を、その暗く深い漆黒の瞳に隠して。