* Snow gift *
 12月23日、午後5時11分。


「よし」

 プリントアウトし終わった書類をトントン、とそろえて腰を伸ばす。

 どうやら今日は定時でアガれそうだな。

 そうだ。

 たまにはひとり酒なんてのもいいかもしれない。

 そうと決まればさっさと片付けて──

「あぁ! ちょうどいいところに!!」

 デスクの上を整理しようとしたそのとき、同僚のケンジが慌てた顔をして走り寄ってきた。

 なんだか無性に嫌な予感がするんだが……。

「スマン! 引き受けてくれ!!」

「はぁ!?」

 理由も何も告げずにいきなり頭を下げるもんだから思わず頓狂な声を上げてしまう俺。

 いやいやわかってる。

 どうせ“いつものことだ”。

 彼女ともめたかなんだかで急いでるんだろう。

 で、

「おまえ、またか……」

「おぉ察してくれるか友よ!」

「俺とおまえが友かどうかは知らんが、ようするに残った仕事をしておいて欲しいってことだろ?」

「頼む! ユッコがまたへそ曲げてなぁ……ほら、明日イヴだろ? 今日中に仲直りしとかないと諸々がパーになっちまうんだよぅ~」

 自業自得だという冷静なツッコミをヤサシイ俺は引っ込めてやった。

「まったく……」

 これ見よがしにため息をついてやる。

 けれどもしかし、それは今朝のため息にくらべればどうということのない、“いつものこと”に過ぎなかった。

「わかったよ。ここで引き受けなくて破局なんてことになったら死ぬまで文句いわれそうだからな」

 クリスマスからの招待状が届かない俺にはお似合いの役というものだろう。

 まぁ、恋人たちの甘いひとときを演出できるのならそれも悪くないのかもしれないな。

「助かる!」

「高くつくぞ?」

「社食のニッコリAランチ1週間で!」

「いやいやガッツリCランチのデザート付きだな」

「くっ、ぼったくりやがって……わかったよ!」

「毎度あり~」

 ひらひらと手を適当に振ってケンジを送り出してやると、俺は再びデスク上のパソコンを立ち上げた。

 



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