* Snow gift *
 いつもより数本早い電車に乗り込むとまるで休日じゃないかと思うくらい車内は空いていて、このときばかりはほんの少しだけ、得をしたのかもしれないと考える。

 こんなときはせっかくだ。

 乗り込んだ車両の一番奥に陣取って、見通しのいい窓枠をフレームに見立てて景色を眺める。

 寝ぼけまなこのように薄ぼんやりとしたあさぎ色の空気を路地の隙間にしまい込みながら、ようやく目を覚まし始めようとしている街。

 そんな叙情的な景色を一蹴するのは名も知らぬ家々の軒先や玄関を飾る電飾。

 やれやれ、どうにも無粋な感じだ。

 いやしかし、これもまたこの時節の風物詩か?

 そう考えると悪くない“存在”のコントラストともとれる。

 しかしながら。

 自分があの灯りのそばにいくようなことは今のところないわけで。

「ま、絵画だとでも思えば素直に楽しめるかもな」

 窓枠をフレームに例えたりと、今日はまたずいぶんと感度がいいなと思いつつ──




 やっぱりなんだか独り言は淋しいものだね。

 などと思ったりもするのだった。

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