我妻教育

3.夫の結婚観

「本日もいつも通り、15時45分のお迎えでよろしかったでしょうか」

先に車を降りた運転手が後部座席の扉を開けて、出て来た私に声をかけた。

朝の校門前は、いつも車で混んでいる。


私の通う松葉学院は、小学校から大学までを擁する私立学校だ。

上流階級の子息も多く通い、ちょっとした有名受験校でもある。

それぞれの学校の門前は、広いロータリーになっており、登下校時には生徒たちの送迎の車が列をつくる。

ちまたでは皮肉ってボンボン通りなどと呼ばれているらしいが…。


小学校から高校までが制服制。

濃紺のブレザーとズボン・スカートに、白のシャツが基本スタイルで、スクールバッグは小学校もランドセルではなく、ショルダータイプだ。

高校はネクタイ・リボン着用だったり、各校ごとブレザーやシャツ、バッグなどに多少のデザインの差はあれど、似たような制服である。

小学生の男子のみ膝丈ズボン。
靴下は自由なので、私は冬服時には黒のハイソックスを合わせている。



初老のお抱え運転手の問いに、私は少し考えてから返事をした。

「…いや、今日は放課後、高等部に寄ろうと考えている。
帰る時間がわかりしだい連絡する」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


高等部へ行くのは、もちろん、未礼に会うためだ。

父の命を果たすため、未礼の弟の勇の言葉の真意を確かめるために。




昨日、NYに戻る直前に、父は言った。

“未礼と親交を深め、婚約を快諾させよ”と。

期限は正月までの約3ヶ月間で。



それに、勇が言い放った言葉がいまだ釈然としないままだった。

“未礼が私の手に負えない”

真に受けているわけではないが、気にならない、とも言い切れなかった。

しかし、見合い時の未礼の立ち振る舞いを見る限りでは、未礼に大きな欠点があるようにはとても思えず、やはり勇の台詞はただの嫉妬であろうと解釈せざるをえないのだが…。

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