我妻教育

2.夫の甲斐性

朝。


いつも通り、弓を引き、鯉に餌をやることから私の一日は始まる。

澄んだ薄い青色を見上げる。

そして朝食を済ませ登校する。


いつも自分の決めた節制ある日々を過ごしている。



しかし今は、未礼を預かる身の上。
未礼に気を配らなければならない。


朝、遅刻せぬよう起こすことも役目の一つである。



鯉の餌やりを終え居間に入ると、すでに朝食の用意が整えられていた。

隣の部屋に続くふすまの前に立つ。


おそらく携帯電話のアラームだと思われる。
繰り返し何度もバイブレーションの音が聞こえてきていた。

鳴り続けているのは、起きていないからであろう。
音を鳴らせばもっと早く気づくだろうに…。


「未礼、朝だ」
部屋に向かって声をかけた。何度も。

返事がない。


女性の寝室に軽々しく入るのは気が引けるが、怠惰を正させる役目があるのだ。

自分の中で入室を正当化させると、
「入るぞ!」
大きな声で呼びかけ、ふすまに手をかけた。

戸を開けた瞬間、漂う空気がすっかり未礼の存在感で満たされているのを感じた。


そして案の定、本人はまだぐっすりと眠っていた。

顔が半分以上隠れるくらい、布団をかぶり、寝息が規則正しいリズムを刻む。


「未礼、朝だ。起きないと遅刻する」
何度も声をかける。
目覚める気配が感じられないので肩をゆすった。

「…う〜ん」
ようやく布団の下で、もぞもぞと動き出した。

もう起きるだろうと思ったのもつかの間、そこからが長かった。まどろみの中で、いっこうに覚醒しない。

「未礼」
「…うん…………」
「未礼」
「…………う……ん…」

何度このやり取りが繰り返されただろうか、30分かけやっと未礼は、起き上がった。





「なんで?」

不思議そうな顔して未礼がたずねる。

布団をたたまない未礼に、なぜたたまないのか聞いたところ、返ってきた言葉である。


「朝は、布団を片付ける。寝る前にまた敷く。
当たり前のことだ」


「だってどうせ夜また敷かなきゃいけないんだよ?
それこそ無駄な労力使ってると思わない?」



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