――――エスヴァン大陸から遥か南東。

魔の領域として恐れられ、各諸国が総じて近づく事を禁じた島の更に奥地。

「――――我が偉大なる王よ……遂に時は満ちましたぞ」

蝋燭(ろうそく)の灯かりだけが燈る薄暗い部屋で、一心不乱に水晶を覗き込んでいた男は水晶を手に取ると、玉座に腰を据える男に恭しく水晶を差し出した。

「ほう……これは……」

水晶に映し出された光景を目にし、上擦った声を微かに漏らすと、男は唇の端を歪ませ、不気味な笑みを浮かべた。

「この時をどれ程、待ち侘びたか……ネフェルティスよ。今すぐこの地へ向かうのだ」

「仰せのままに……」

“王”と呼ばれし男に命ぜられ、ネフェルティスは玉座に鎮座する男に慇懃(いんぎん)に腰を折ると、漆黒の闇に混じるようにその場から消え去った。

押し殺していた歓喜が遂に頂点に達したのか。

一人残った男は玉座から徐に立ち上がると、高らかな声を上げて笑い出す。

暫くの間、歓喜に声を震わせていた男は、つと笑うのを止めると、空に浮かぶ真紅の月をゆっくりと見上げた。

「紅の月が欠けし時――……その時こそが長年追い続けてきた我が願いが叶う時。もうすぐだ。もうすぐこの世界は我が手中に堕ちる」

男の言葉に耳を傾ける者など誰一人とていない。

闇に囁きかけるよう、言葉を紡ぎ出した男は掌の水晶を粉々に割ると、高らかな声を上げて再び笑い出す。


真紅の月は静かにその時を迎えようとしていた――――

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