俺がその真実を知ったのはいつだっただろうか。

十五年前、ガルム族の襲撃を受け、俺は何もかも全てを失った。

それまで当たり前のようにあった日常も、家族も、戻る故郷さえも。

着の身着のまま、進む方向すら分からず、深い闇の中をただがむしゃらに走り続ける。

剥き出しの素足に小石が食い込んでひどく痛い。

足の爪が割れ、傷口から血が溢れ出しても、それでも尚、俺は疲れ果てた足を引き摺って前へ進んだ。


――――――強く生きて。


そう願った母の言葉を裏切ってはいけない。

そんな思いに駆られて。

どれくらい走り続けたのだろう。

闇に無数に浮かび上がる松明の炎と、背後に迫る殺気立った足音が消えてなくなった―――と思った頃、真っ暗だったはずの空が白み始め、それでようやく自分が一晩中走り続けていたことに気づいた。

やっと夜が明けた。

長くて暗くて心細い夜がやっと―――けれどそんな安堵を抱けたのも、ほんの一瞬だけだった。

視界に映った空に一日の始まりを告げる暖かな陽の光はなく、石灰色の分厚い雲に覆われたそれは嘲笑うかのように、傷ついた身体に冷たい氷雨を容赦なく打ちつける。

それまで張り詰めていた緊張が一気に緩んだのだろう。

立ち止まった途端、血だらけだった足が痛みを訴え始め、それに呼応するように身体のあちこちにできた擦り傷や切り傷がじくじくと痛み出し、俺は一歩も動けなくなっていた。


―――……寒いよぅ。痛いよぅ。もう一歩も動けないよぅ。


幼いながらも、ひたり、と忍び寄る死の影を背後に感じた。


―――……父様、母様、もう一歩も動けないよぅ。


生きることを諦めかけたそのとき、俺は降り頻る氷雨で白く濁る視界の中に朽ち果てた小屋を見つけた。

(それって奇跡だよ。ねえ、そう思わない? アベル)

美緒ならきっとそう言うだろう。

確かにあのとき、生きることを諦めていたら、美緒と会うこともなかった。そう考えれば、あれは“奇跡”だったのかもしれない。

けれどそのときの俺は助かった、とは思わなかった。

朽ち果てた小屋は幼かった俺にはひどく恐ろしい存在に見えた。

もし魔物が潜んでいたら。もし山賊が潜んでいたら。

そう考えたら怖かった。

けれど生きることを望んだ本能が動かなかった足を動かした。

朽ち果てて錆びついた蝶番が、ぎいっ、と嫌な音を立てる。

傾いたドアの隙間から恐る恐る中を覗き込めば、外見同様、中もひどく荒れていた。

だが恐れていた魔物や山賊が潜んでいる様子はなく、多少なりとも、風雨を凌げそうな小屋の中に足を踏み入れると、俺はその片隅に身を寄せた。