全く以ってこいつには一体、何枚の舌がついているのだろうか。

『彼女のお父上とは古くからの知り合いなんです。今から十六年前、語学と伝統文化を学ぶため、日本に留学した私のホームスティ先が、彼女のお父上のご実家だったのです。彼女のお父上には本当にお世話になりました。

約三年間、日本で様々なことを学び、私は母国へと帰りましたが、それからも年に何度か手紙のやり取りをするなどして、彼女のお父上とは懇意にさせて頂いておりました。

あれから十三年が経ち、今回、ビジネスでこちらの町を訪れたのですが、まさか恩師である成瀬氏のお嬢さんに会えるなんて、夢にも思っていませんでした。

彼女はまだ幼かったので、私の事をあまり覚えていないようですが、私は彼女のお父上から成長してゆく彼女の写真を、毎年のように受け取っていたので、一目見て、彼女が成瀬氏のお嬢さんだと分かったのです。

ここだけの話、彼女のオムツを替えたこともあるんですよ。

三日後にはフランスに発つ予定でしたので、日本を離れる前に彼女のお父上に会いに行こうと思っていたのですが、いやあー、本当に驚きました』

類まれなるその美貌で多くの女性の心を誑(たぶら)か……否、魅了し、雑誌の特集にまで取り上げられた占い師のレオナルドさん――……を騙(かた)っていたアルトゥールが、どうやらあたしと知り合いらしい、ということを知った花菜ちゃんとさおりんに、二人はどういう関係なんだ、と問い詰められ、焦るあたしを尻目にアルトゥールは悠然とした口調でそう答えてみせた。

オムツを替えたこともある―――との言に、ぱちくり目を瞬かせながら、レオナルドさんって一体何歳なんですか!? と驚く二人にスタバのエスプレッソを優雅に飲んで見せながら、三十四歳です、とアルトゥールが答えたのは、今から四十分も前の話だ。

パパの本社勤務が決まり、小学校に編入するのに合わせて、桜ヶ丘に引越ししてきたあたしは六歳になるまで、磯の匂いが濃く香る海沿いの小さな町に住んでいたから、当時を知る由もない花菜ちゃんとさおりんは何の疑いもなく、アルトゥールが捏造した思い出話をすんなり受け入れた。

花菜ちゃんとさおりんの興味は尽きることなく、その後も次から次へと怒涛のごとく、二人は質問を浴びせかけたのだけれど、アルトゥールは動揺の欠片すら見せず、投げかけられた質問の全てに堂々と答えてみせた。

何ていうか饒舌(じょうぜつ)に嘘を繰り出す、その強(したた)かな舌に呆れを通り越して、ある意味、尊敬すらしてしまう。

大根役者のジオルドにアルトゥールの爪の垢(あか)を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。