約束通り、パパは家に帰る途中、海に迫り出すように建てられた、とてもお洒落なフレンチのお店へ連れて行ってくれた。

小、中、高と十二年間も一緒だったんだ、と白い歯を覗かせて、美味しい料理を振舞ってくれた同級生のおじさんは、テーブルに並ぶ繊細な料理を作ったとは思えないほど、筋肉質の逞しい身体つきをしていて、短く刈り上げた頭に青色のバンダナを巻いたその姿は、カサンドラで出会ったエレーヌさんの弟さんとそっくりで、何だか妙に可笑しかった。

ゆっくり話がしたいから、と臨時休業の札をかけた店内に他のお客さんの姿はなく、ママを交えて思い出話に花を咲かせる三人の楽しげな声に耳を傾けながら、舌が蕩けそうなほど、美味しい料理に舌鼓を打ち、食後に出されたショコラケーキをたっぷり堪能したあたしは一人席を外し、さざめく波が打ち寄せるテラスに出ると、無数の星が散らばる夜空を見上げた。

ざざん、とさざめく波の音を聞きながら、銀色に瞬く星の揺りかごに身を委ねていたら、同級生のおじさんの奥さんが、天体望遠鏡を持ってきてくれて、天体観測が趣味なの、と言って、彼女は星に纏(まつ)わる様々な話を聞かせてくれた。

夜空を駆ける流星の話だったり、遥か彼方に散らばる銀河の話だったり、彼女が聞かせてくれる話はどれも面白く、とても興味深いものだった。

パパ達は思い出話に、あたしは天体観測に、それぞれ有意義な時間を過ごし、今度は酒を飲みながら語ろうな、と次の約束を取り付けたおじさん夫婦に笑顔で見送られ、行き同様、高速道路を二時間ばかり走って、パパが運転する車が家に戻ってきたのは、日付けが替わる三十分前だった。

車庫入れ作業のパパを一人残して車から降り、ママと一緒に家に入れば、ゆっくり腰を落ち着ける間もなく、リビングの片隅に荷物を置くと、ママはエプロン片手にキッチンへ向かう。

どうやらコーヒーを淹れるつもりらしい。

「コーヒーならあたしが淹れるからママは座っててよ。久しぶりの外出で疲れたでしょう?」

カウンターで仕切られたキッチンに入り、戸棚から出したばかりのコーヒーの瓶をママの手から取り上げ、ほら、と背中を押す。

「あら、コーヒーを淹れるくらいなら、どうってことないわよ」

「いいから、いいから。今日くらいはゆっくりしててよ」

三人がけのソファーに半ば強引にママを座らせてキッチンに戻り、マグカップ二杯分のお水を注(つ)いだ片手鍋を火に掛ける。次いで食器棚からマグカップを二つ取り出し、温めようとポットのお湯を注(そそ)いでいたら、車を入れ終えたパパがリビングに戻ってきた。

「今、コーヒー淹れてるから、パパもソファーに座って待ってて」

「ああ、ありがとう」

キッチンから声をかければ、すぐにリビングの方から、パパとママの話し声が聞こえてくる。

もうすぐ結婚十七年目を迎えるパパとママはいわゆる“おしどり夫婦”というやつで、娘のあたしですら、羨むほど仲がいい。

どうやら今日撮った写真を見ているらしく、二人の楽しげな話し声に混じって、ぴこ、ぴこ、とデジタルカメラを操作する電子音が響く。

パパとママの会話に何となしに耳を傾けていたら、こぽこぽと音を立てて、お鍋の中のお湯が煮立ち始めた。