時折、吹く風に満開の桜の花がさわさわと音を立てて揺れ、桃色の花びらを静かに降らせる。

気がつくとあたしは、高校へと続くあの桜並木に立っていた。

「美緒、どうしたの? 急に立ち止まって? 早く行かないと遅刻しちゃうよッ!」

風に舞う桃色の花びらを見上げるあたしの耳に飛び込んで来たのは、小学生の頃からずっと聞き慣れている花菜ちゃんの声。

声がした方に目を遣ると、立ち止まっているあたしを急かすように、随分と先の方で花菜ちゃんが、片手を振って手招きをしている。

ひらひら舞い落ちる桜の花びらと、手を振る花菜ちゃんの姿を朧げに見ながら、あたしはさっきまで目の前にいた二人の青年の事を思い出していた。


――――……あれは夢、だったの?


二人の青年が着ていた衣装や、交わした会話はもちろんのこと、頭から浴びた冷たい水の感触さえも、夢という言葉で片づけるには、それはあまりにもくっきりと記憶が鮮明に残り過ぎている。

「美緒ってば――ッ! 早くこないと置いてくよ――ッ!」

さっきまでの事が頭から離れず、ぼうっと立ち尽くしていると、花菜ちゃんの急かす声が、再び耳に飛び込んできた。

「あ……待って! すぐにそっちに行くから!」

花菜ちゃんの声に地面に落ちていた鞄を拾い上げる。

……あれは夢よ! 夢っ! 
だってありうる訳ないじゃない、あんなこと。

頭の中で強く言い聞かせ、雑念を振り払うと、手を振る花菜ちゃんの方へ駆け寄ろうとした。

その瞬間。

周りの景色が水飴みたいに、ぐにゃり、と歪んで、ぐるぐると渦を巻きながら消えてゆく。

さっきまでそこにあったはずの桜並木はあっという間に掻き消え、気がつくと暗闇の中に放り出されていた。

この作品のキーワード
騎士  長編  冒険  ファンタジー  トリップ  異世界  すれ違い  溺愛  年の差 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。