自分の中にふぅっと意識が戻ってくるのを感じて、ゆっくりと瞼を開いたあたしの視界に、心配そうに覗き込む青年Bの姿が映った。

「大丈夫……か?」

いまだ夢の中を彷徨(さまよ)っているようなふわふわとした感覚に揺らぐ意識のまま、不安げな表情で聞く青年Bを見返すなり、夜空に瞬く星のきらめきを閉じ込めたみたいな銀の瞳と視線が合う。

銀色に瞬くその瞳はもちろんのこと、肩のラインで切り揃えられた髪はまるで空を映したみたいな水色をしていて、何度見ても、それは日本人が持つ本来のものからは大きくかけ離れている。

近頃では日本人もずいぶんと個性的になり、かなり奇抜なファッションをしている人も少なくないけれど、瞳にしろ、髪にしろ、纏っているその衣装―――そう、“服”というよりは“衣装”という単語の方がしっくりするそれにしろ、どう贔屓目に見ても、違和感を感じずにはいられない。

(カラーコンタクト……とかじゃない、よね?)

青年Bの心配をよそに暫(しば)しの間、青年Bの顔をボーッと見上げていたあたしはのろのろと身体を起こすと、青年Bの頬を両手で掴み、力任せに彼の頬をびろーんと横に伸ばしてみた。

「いッ……痛たたたたたたッ! っていきなり何するんだっ!?」

予想通り、青年Bはあたしの手を払い除けると、頬を押えてしゃがみ込む。

「……痛がってるって事はこれが現実、なんだ」

「って、そういう確認は自分の頬でしろよッッ!」

ぼそり、と呟くなり、青年Bが頬を押さえたまま、がばりっ、と立ち上がり、猛烈な剣幕で捲くし立てる。

青年Bの剣幕に言われてみれば、それもそうか、と納得しつつ、ようやく起動し始めた思考の中で、記憶を失う直前、聞き慣れない単語を耳にしたことを思い出し、あたしは真相を確認するべく、恐る恐る口を開いた。

「あ……あのぅ、ここって――……」

そろり、と上目で見上げつつ、聞いてみれば、青年Bはああ、と頷くと、神妙な面持ちを浮かべてこちらを見返す。

「ここはエスヴァン大陸にあるアリルア、って国だけど――……もしかして知らないの?」

首を傾げながら答えた青年Bの唇から紡がれた単語は聞き慣れないどころか、今まで一度だって聞いたことのない単語ばかり。

自分が知りうる限りの知識では、地球に存在する大陸は全部で六つだったはずだ。

ユーラシア大陸にアフリカ大陸。北アメリカ大陸に南アメリカ大陸。それからオーストラリア大陸に南極大陸。

地理の授業で習った大陸名を指を折りつつ確認したものの、その六つ以外の大陸名に心当たりはない。

気を失っている間にもう一つ大陸が増えたのだろうか、と考えて、いやいやさすがにそれはないだろう、と頭を過ぎったバカな考えを即座に打ち消しつつ、だったらここは一体どこなんだ! と頭を悩ませていたあたしは三日前に読んだばかりの小説のことをふと思い出して、ざざっ、と青褪めた。

雨が降りしきる梅雨のとある昼下がり、階段から足を踏み外した女子大生が、気がついたら見慣れない森の中にいて、山賊だか、盗賊だかに襲われる―――というエピソードから始まるその物語はWEBで公開されていたもので、異世界にトリップするという設定の話だったが、よくよく考えてみれば、地球上に存在する大陸を再確認しているあたり、今の自分もほぼその物語と同じ展開ではないか。

物語の冒頭から暴漢に襲われ、危機的状況に陥った主人公の女子大生は、間一髪のところで白馬に跨った王子様に助けられ、その後も何かと災難に巻き込まれていたが、立ちはだかる様々な困難に紆余曲折しながらも、最終的には白馬の王子様と結婚していたような気が―――……っていやいやいや、今はそんなことはどうでもいいわけで!

っていうか、もしかして、いや、もしかしなくても、あたしもその異世界とやらにトリップしちゃったってことっ!?

そんなバカな展開があるもんか、と思いたいものの、大陸の名前を確認しているあたりで、もう十二分にその可能性はあるわけで。

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