血を吸い上げたように真っ赤に染まる刃先が、月明かりを反射して闇に浮き彫りになり、ヒュッと音を立てて空気を切り裂く。

闇が深まり、静まり返ったアリルア城の中庭。

白銀の鎧を身に纏い、一人無心に剣を振るうディハルトの姿があった。

彼がそこに何を見据えていたのかは分からない。

ただ一点を見つめ、手にした剣を幾度となく、空(くう)に向かい、振り落としていたディハルトは深い闇の向こうから、何者かが密かに窺(うかが)う気配を感じ取り、剣を振るう手を止めた。

「……そこにいるのは誰だ?」

何者かが潜む暗闇をじっと見据えたまま、ディハルトはいつでも臨戦態勢が取れるよう、剣をしっかりと握り締め、闇に向かって言葉を放つ。

――――その刹那。

目の前の植え込みがガサガサと音を立てて揺れ動き、暗闇の中から全身を黒いローブで覆った小柄な老人が突如として現れた。

「こんな夜更けに何用だ? 年寄りと言えど場合によっては、この剣がその身体を貫く事になるぞ」

冷酷さを漂わせる眼差しを向け、牽制するディハルトを見返すと、老人は身体を奇妙に揺らしながら、嗄(しわが)れた声で、ヒャッヒャッヒャッ、と笑う。

「――――何が可笑しい?」

「この私を貫くなどとは面白い事を言う……貫けるかどうか試してみるか?」

「――……そうか? 言っておくが俺は人を斬る事に躊躇(ためら)いなど微塵も感じねえ……自分の言った事をあの世で後悔するんだな」

ニィッ、と唇の端を歪ませ、冷酷な笑みを浮かべると、ディハルトは躊躇うことなく、握っていた剣を振り翳した。

その瞬間、老人の双眸が怪しく光る。

と同時に剣を振り落とそうとしていたディハルトは、己の身体を襲う痺れるような感覚にギリッと奥歯を強く噛み締めた。

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