悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
1.prelude
■prelude(プレリュード『前奏曲』)

魔界 某国 
魔王が棲む 城の一室――


「ニバス」

聞き慣れた低い声にそう呼ばれ、アイドル然とした顔を持つ青年はそれに似つかわしくないため息をついた。

……だから、そう呼ばないで下さいって言っているのに……。

心の中で毒づきながらも、魔王様と言われる人の足元に恭しく傅く。


ニバスという通り名を持つ青年は、地獄の宮廷で『道化師長』をしていた頃に使われていた、その名をとても嫌っていた。
道化師(ピエロ)として過ごした浮かない日々が、忌まわしい黒い記憶として自分にべったりと絡み付いていることを思い出させるからだ。

そこから逃げたい一心で、誘われるがままネオ・アスモデウスの付き人になった。

宮廷で見た、堂々たる風貌。
風にたなびく黒いマントの裾。
自信に満ち溢れた笑顔で口元を彩った、眉目秀麗なその顔。

遠い昔のことなのに、昨日のように色鮮やかに思い出すことが出来る。

そして。
顔をあげればそこに、あの日と寸分違わぬ麗しい美貌を持つ魔王が憂いを帯びた顔で青年を見下ろしていた。

「何か不満か?」

低い声で尊大に問う。

「いえ。
出来れば、ニバスより、Giunone(ジュノー)と呼んで頂ければ嬉しいのですが」

Giunone、それは一般的にローマ神話に出てくる女神の名。
一介の悪魔、しかも男に対して相応しい呼び名ではない。

しかし、それでも。
青年は願わずには居られない。

「それは、リリーがお前をそう名づけたからか?」

魔王は想い人の名を言う時だけ、そこにささやかな情を込めて問う。





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