ベイビーベイビーベイビー

Baby3 麻美

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 ここは相模湾を臨む、小さな町である。

 海を越えて来た潮風の音が、この夜の寒さを更に増幅させている。

 岬を挟んだ少し先の海岸線を見れば、立ち並ぶ旅館の灯りで、その一帯だけが夜の闇にあって、ぼんやり丸く浮かび上がり、とても不思議な表情を見せている。


 それがどうだろう。

 まだ時刻は日を跨ぐ前にも関わらず、この町はわずかに存在する街路灯を残し、すっかり闇に溶けてしまっていた。

 昼間であれば麻美の部屋の窓からでも、美しく流線形に広がる駿河湾が一望できるのだが、夜ともなれば見える景色は何も無い。


 この日も仕事を定時で切り上げ、真っ直ぐ自宅に戻ってきた麻美は、早い夕食を済ませ、自分の部屋で長い夜を過ごしていた。




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