「ラシッドさま、別の部屋を用意いたします。ここに寝かせるなど、とても――」
「いや、よい! 侍医はまだか!?」

ラシッドは莉世を見つめたまま、アーメッドの言葉を鋭い口調で遮った。

娘は意識を失ったまま動かない。息をしているのか心配で、ラシッドは褐色の長い指を彼女の鼻の近くまで持っていく。

(こんなになるまで放っておいたとは……牢屋に入れず、すぐに診させていれば、こんなひどい状態にならずに済んだはず)

冷酷無慈悲な王と陰で言われているラシッドだが、昏睡状態の娘に、目を覚まさせられた思いだった。

ラシッドは、美しかったと思われる砂交じりのブラウンの髪のひと房を持ち上げる。肩までの長さの髪は、太陽の熱で艶が失われていた。

(もっと髪が短ければ、少年のようにも見える娘だな)

いまだかつて見たことのない服を着た華奢な娘は手足が長く、少年のようにスラリとした肢体だった。

控えめに扉をたたく音のあと、皇宮の侍医カハールが入ってきた。黒髪にはちらほら白いものも見え始めている、ラシッドの父親ぐらいの年の男だ。

王の寝台に昏睡状態の娘がいることに、カハールは内心驚いたものの、顔には出さず丁寧に診ていく。

「……熱射病による脱水症状ですな……かなり深刻な状態でございます」

カハールは扉の前に控えていたふたりの若い女官に、莉世の身体を冷やすように命じる。

「これでは、ラシッドさまの寝台を汚してしまいます。どうか用意した部屋へ」

女官が濡れた布を用意しているのを見て、アーメッドが再び口を開く。

「よいと言っただろう? しつこいぞ、アーメッド」

ぐったりした娘を見つめたまま、ラシッドはアーメッドを見ようともしない。そればかりか、女官から濡れた布をもらうと、彼女の額に置いている。

(人の世話をするラシッドさまに目を疑いたくなる。しかし、この娘はいったいなんなんだ……? この娘が着ている服は、我が国では見たことがない)

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