粉雪
点滴が終わって、すぐに家に帰った。


本当は、経過の観察のために一日入院が必要だったが、

あたしはあんな場所に居たくなかった。


まるで自分の罪を咎められているようで。


それに耐えられなかった。


何より早く、隼人に会いたかった。


会って、抱きしめて欲しかった。



―ガチャ…

「ただいま~!」


『―――ッ!』


瞬間、目が合った隼人は悲しそうに視線を落とす。


だけどあたしは、言葉を続けた。


隼人の顔は、今にも“ごめんな”って言いそうで。


謝られたらまた、あたしは泣いてしまいそうだったから。



「今日ね、じゃがいもが安くてさぁ。
肉じゃがにしようと思うんだ♪」


『…ちーちゃん…。』


立ち上がった隼人は、ゆっくりとあたしを抱きしめた。


だけどあたしは、必死で込み上げるものに蓋をした。



「…ねぇ、隼人…。
お願いだから、何も言わないで?」


『―――ッ!』


「…あたしは大丈夫だよ?」


『…うん。』


隼人はまるで言葉を飲み込むように、それ以上は何も言わなかった。


締め付ける胸は苦しくて、だけど隼人が傷つく方がもっと嫌だった。


愛してるから、大切だから、あたしだけが苦しめば良いんだよ。



何で隼人は、本当のことを話してくれなかったんだろう…。


話してくれてれば、何かが変わってたかもしれないのに…。


あたしがもっと早く、隼人の苦しみに気づいてあげられれば良かったのに。



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