粉雪
復讐
―プルルルル、プルルルル…

『はい~?
ちーちゃん、残業だった?』


いつもと変わらない隼人の声に、だけどあたしは、一呼吸置いて口を開いた。



「…ごめん。
ちょっと、頼みたいことがある。
“本田賢治”に。」


『…ヤバイこと…?』


隼人はすぐに何かを悟ったらしい。



「…わかんない。
でも、あたしには対処しきれないから…。
話だけでも聞いてあげて?
それでどーするかは、そっちで決めてくれて良いから。」


『…わかった。
とりあえず向かうよ。
今、どこ?』


公園の場所を告げ、電話を切った。



『…誰が来るの…?』


あたしの動作を見届け香澄は、不安そうに聞いてきた。


その瞳をしっかりと見据え、言葉を紡ぐ。



「…アンタとは、人種も住んでる世界も違う人だよ。
あたしはこの話、聞かなかったことにするから。
あとは、その人次第だよ。」


『―――ッ!』


あたしの言葉に、香澄は緊張を走らせた。


本当のことを言うと、住んでる世界が違うのは、隼人だけじゃない。


でもあたしは、みんなの前では“酒井千里”を演じ続けていた。


バレるのが怖いんじゃない。


あたしが何かを言ってしまったら、危険なのは隼人だから。



真冬の夜風は冷気さえも帯びていて。


所々を照らす街灯が、余計に物悲しさを演出していた。


手に持っていたコーヒーの缶は、いつの間にか熱さえ奪われ、

冷えた指先がかじかむのを感じる。



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