粉雪
崩壊
とっくの昔に、あたし達は壊れてるって。


わかってたのに、それでもまだ、必死で続けていたんだ。


添える手を離せば簡単に、こんなにも脆いガラス玉は粉々になるのだろうに。


ただ、それを守ることだけを糧にして生きていた。




『ちーちゃん、行って来るね?』



最近の隼人は、やつれている様にも見えて。


いつも笑顔に力がなく、どこか哀しげだった。



「…うん…」



あの日以来、あたし達の間の会話はほとんどなかった。


新しい食器で送る生活は、今までの楽しかった日々とは違っていたから。


守って欲しいんじゃない。


ただ、何もかも話して欲しかっただけなのに。


隼人は未だに、何も言ってはくれなかった。



『…今日、8時ごろ帰るから。
どっか食べに行こう?』


「…うん…」



“早く帰る”なんて言われても、

香澄の所に行かない保障なんて、どこにもなかった。


ただ待ち続け、耐え続けることしか出来なかったんだ。



“いっそ、隼人を殺せたなら”


いつも脳裏に浮かんでは消える。



愛してるから、殺したい…


だけど、愛してるからこそ殺すことなんて出来なかった。


あたしはこの広いマンションで、何もかも与えられて隼人に飼われてるだけ。


“愛人”だってわかってたら、何も言わなかったかもしれない。


だけど隼人は、いつも“あたしだけ”と言い続けていた。


そんな隼人の優しさが、余計にあたしを苦しめてるのに。


あたしの心は完全に壊れ、

“別れる”なんて一番簡単なことを、思いつくことさえ出来なかったんだ。



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