粉雪
不安
次の日の夕方、隼人が帰ってきた。


ほとんど寝ずに運転していたらしいから、家に帰るなりベッドに倒れこんだ。


こんなになってまで稼ぐ10万に、意味があるのわからない。


だけどあたしは、隼人のおかげで生活出来ているから、何も言うことは出来なかった。




「…お疲れ、隼人…。」


『…うん、ありがと。』


あたしの淹れたホットココアを受け取った隼人は、力なく笑った。



『…ごめんな、お土産買えなかった。
それに、折角の卒業式だったのに…。』


「…良いよ、そんなの。
事故せずに帰ってきてくれただけで…。」


隼人がキスをしてくれると、少しだけ安心出来た。


本当に、隼人が無事なら、それだけで良い。


他に、何も望んでないよ。



『…だな。
とりあえず、寝るわ。
携帯鳴ったら起こして?』


「…わかった。」



フラフラでも、気にするのはいつも、あたしのことと仕事のこと。


心配とか、不安とか…


考え出すと胸が苦しくなる。



“何も聞かないし、何も言わない”


知らず知らずのうちに、あたしはこの約束を守り続けていた。



“何も聞けないし、何も言えない”


だけどきっと、こっちの方が正しいんだと思う。



あたしが絶対にファミレスのバイトを辞めないのは、

“普通の生活”の最後の砦だと思っているからだ。


普通にお金を稼ぐこと。


普通に社会生活を送ること。


隼人と居ると、麻痺してしまいそうになる感覚を取り戻せる唯一の場所だと感じる。


それまで失ったら、あたしは二度と“普通の生活”に戻れなくなってしまう…。



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