みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
最終章「斜陽に頬染めて……」
水泳道具一式の入ったバッグを肩から下げ、ミュール履きのウチがスイミングスクール目指して歩道を歩いとると、道路を挟んだ反対側の歩道を黒い喪服スタイルの帯刀先生と辺見先生がなにやら話しながら歩いてはるのに気がついた。

「いやぁ、それにしても各務の父親とお兄さんの悲しみようといったら、まさに筆舌に尽くしがたいものがありましたね」

どうやら二人は一葉のお葬式に行った帰りらしい。

「でも、こんなこと言ったらアレですけど、双子の一人が死んでも、もう一人残ってるんですから、それが父親にとっては救いじゃないですかね」


「…!!」

ウチは反対側の歩道からたまたま聞こえてきた辺見先生の言葉に絶句してもうた。

ほんでホンマは今すぐ彼女の頬をひっぱたいて、こう言ってやりたかった…、

「双子はどっちかが死んだときのための“スペア”ちゃう! 二人のうちの一人しか死なへんかったからって、悲しみが半減するわけちゃうし、誰が死のうと、その悲しみは唯一絶対のモンなんや!」

…って。


だけどウチはナンも言えんと……それどころか、先生たちから逃げるように顔を伏せ、そそくさとスイミングスクールへ向かった。
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