嫌いな男 嫌いな女

『巽のホワイトデー』




ああああー面倒くさい。
百貨店の地下に行くと、今すぐ引き返したい気持ちになった。

なんでこんなに混んでるんだ。俺には理解できねえ……。


「ほら、早く選びなさいよ」

「わーってるよ」


渚の言葉にめんどくさそうに返事をして付いて行った。

バレンタインとやらの意味もよくわかんねえ。小学校のときから女子にもらっていたけどあんなのただのイベントだと思っていた。ホワイトデーなんて気にしたことなかったし。おかんが勝手に用意していたし。

でも、さすがにもう自分でなんとかしろとのことだ。
というか、なんとなく、おかんに気軽に言うことができないというか……。


初めて、ウワサの本命チョコとやらをもらった。
ご丁寧に手紙まで入っていた。好きだとか言われてもいまいちピンとこないんだけど。無視するわけにもいかねえし、どうしたもんかと渚に相談したらこうなった、っていう。

……めんどくさい。

でも仕方ねえとか言えねえ。ひとりで買いに来る方が無理だしな。渚がいるだけマシだ。

散々からかわれたけど。


「で、何個いるの?」

「んー……ちゃんとしたのがひとつと、クラスの女子にふたつ、だっけな。マネージャーにやすそうなチョコ貰ったけど、それもお返しっていんの?」

「しときな」


やっぱり必要なのか……。
安いチョコっていうか、みんなに同じもん配ってたもんなあー。値段よりもソッチのほうがへこむ。まあ、期待してたわけじゃねえけど。

いや、ほんのすこしは夢見てたけど。
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