吸血鬼の花嫁



私とユゼはあれ以来、なんだかぎくしゃくしている。

と、いうより私が一方的に避けているというのが正しいのかもしれない。

帰ってきたルーは私たちの様子を見て、目を細めた。


「喧嘩でもしたのか?」

「ち、違うけど」


喧嘩は、していない。

だけど、喧嘩をしたみたいに気まずいのは確かだ。

あまりユゼには会いたくないのに、姿が見えなければ無意識にその姿を探している。


「いや…まあ…なんでもいいけどよ…」


ルーは買って来たものを机に置くと、ユゼを呼んだ。


「銀のナイフがニ本しか手に入らなかったわけだが…ま、これは仕方ないとして。

で、吸血鬼。いつから行くんだ?」


ルーの問いかけにユゼより早く私が尋ね返す。


「どこかへ行くの?」

「なんだ、伝えてなかったのかよ」

「言いそびれた」

「言いそびれんなよ、大事なことを…。結界を張りなおしに行くんだ」


そうだよなとルーは同意を求めるように、吸血鬼を仰ぎ見た。

吸血鬼は頷いてから、私を一瞥する。

私は思わず、両手で頬を包んで後ろを向いた。目を合わせたくなかったのである。


「早い方がいいだろう。お前はいつから動ける」

「そうだなぁ、明日休ませて貰えばなんとか」

「なら明後日に」

「了解」

「随分、急なのね…」


明後日なんて、急な話だ。


「ハーゼオンの言っていたことが気になるからな。そうでなくとも、国境側の結界はここから遠いし、一度様子を見に行った方がいい」

「そう…」


二人が何やら話し込んでいたのはこのためだったらしい。

あの古い地図も、このために見ていたのだ。

それとは別に、ルーとは普通に喋れることを確認して、私はほっとする。

何やら歯車が噛み合ってないのは、ユゼに対してだけなのだ。


「花嫁」


そう思った矢先に、ユゼが私に声を掛ける。

呼ばれて私はそろそろとユゼを見た。

そこには、何を考えているのかよく分からない顔がある。


「というわけで、しばらく留守にする」

「いってらっしゃい…」


私はユゼの視線を避けるようにそう呟いた。



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