戦国遊戯
少しの間、お互いに動くことはなかった。相手の出方を探り合うようにして、ずっと、見つめたまま、動かなかった。

先に動いたのは、幸村だった。棒をついてくる。
軽く、棒をいなして、突く方向を変えた。と、同時に前に出る。
一気に幸村までの距離を縮めようとしたが、幸村が棒を払ってきた。体をぐいっとそらして、間一髪のところで棒をよける。そのまま手を突いて、バック転で起き上がった。

今度は幸村が間合いを詰めてくる。
また、棒を突き出してきたので、今度はしゃがみこみ、足をなぎ払った。

が。


・・・ったー!足、めっちゃ硬いし痛いやん!


逆にこっちがダメージを受ける形になる。が、息をつくまもなく、すぐに上から幸村の棒が振り下ろされてくる。横に転がり、幸村の後ろへと回った。
幸村が、棒を後ろへとついてくる。脇を掠めるように、棒が体の横を過ぎていった。すかさず、その棒をもって、さらに後ろへと引っ張った。一瞬、幸村のバランスが崩れる。その瞬間、幸村のひざ裏を蹴り飛ばす。幸村が、前のめりになって、ひざをつく。

横に回りこんで、幸村ののどぼとけめがけて手とうを当てる直前で止めた。
と、同時に、幸村の持っていた棒が、私のみぞおちに当たる直前で止まった。


お互いに、しばらくそのままで動かない。
久々に動いたせいか、体中が汗でべっとりとした。


よく考えてみれば、この服以外の着替えがないってのに。ほんと、どうしてくれようか。


はぁはぁ、と息をしていると、ぱちぱちぱち、と手を叩く音が聞こえた。信玄だ。

「お見事。玲子、そなた、幸村相手にそこまでできるとは、たいしたものよ」

はっはっは、と、豪快に笑う。玲子は、軽く頭を下げた。幸村は、目を輝かせている。

「玲子!これからも、俺と手合わせ願いたい!そうだ、これからは、棒や剣も覚えていくんだ。きっとさらに強くなるぞ」

うんうん、とうれしそうに話しかけてくる。

「・・・いえ、できればお断りしたい気分なんですけど」

「なぜだ?せっかくこんなに強いんだ。もっと強くなりたいとは思わないのか?」

「これでも女の子なんで。自分の身が守れる程度に強ければ、それでいいの」

ふぅ、と息を吐いて、空を見上げた。空の色が、もう赤く染まり始めていた。
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