フラスコの恋
沈殿された想い
夜中に主人である一真の重みを受け止めながら、付き合っていた頃より少し太くなった首筋をそっと見つめる。

そのひどく無防備な姿に心が緩まる。

手に入れた、と思う。

大丈夫。

この人はどこにも行ったりしない、私の側にずっといる。

するとその首筋が唐突に成海さんのものへと変わり、心を激しく揺さぶられる。

真直ぐに伸びたその首筋は綺麗な一本の線を描き、鍛えられた背中へと続く。

無意識のうちに主人の顔を両手で少し乱暴につかみ、自分の顔に引き寄せてその瞳をしっかりと見つめる。

少し驚いた顔。

それは主人の顔だった。

主人は一瞬戸惑ったようだったが、すぐに穏やかな顔になり、優しく私を見つめ返す。
胸が詰まった。

涙がこぼれそうになる。

「・・・いかないで」

切なくなって、掠れた声で眼差しを動かさないまま哀願する。


いかないで
おいていかないで
側にいて


涙がこぼれた。

唐突に言われたにも係らず、主人はどこにもいかないよ、と私の頭を腕で包み込みながら優しく丁寧に繰り返す。


大丈夫。
ずっとずっと一緒にいるよ。


突き上げてくる感情を抑えきれず、私は腕を主人の背中に回してしがみつく。

大丈夫だ。

大丈夫。この人はずっと私の側にいてくれる。

自分の気持ちが落ち着くまで、時間をかけて主人のぬくもりを自分の体に沁みこませる。

しばらくすると、気持ちが落ち着いてくる。

現実を思い出す。

私はもうひとりじゃない。

主人もいる。

息子もいる。

横を見ると、幼稚園で疲れたのか陽紀(はるのり)がぐっすり眠っている。

大丈夫。

こんなにも安らかな生活が、私の手の中にしっかりとある。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop