ふたつの指輪
また会えることがあったら、この1万円はあの人に返そう。



……会えることなんか、まずないだろうけど。


こんなお店、もともと来る人じゃないもの。





「お疲れさまでした」


従業員用の裏口を開ける。



(寒い……)

あたしは薄っぺらいコートの襟を立て、暗い裏道を駅の方向へ歩き出した。




と。


不意に力強い手で後ろから腕をぐいっとつかまれた。



「きゃあっ」

「おい」

「いやっ離してっ」


思わず腕を振り回す。




(やだ、痴漢――!?)
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