イジワルな恋人
不思議そうに聞く愛に、言葉に迷う。
そんなあたしの代わりに、梓が笑顔で答える。
「奈緒、新しいお財布が欲しいんだって」
「あー、あたしも新しいのに替えたいなぁ」
「お財布っていえば、ブランドでさー……」
梓の一言で話題がお財布に逸れて、その様子に胸をなでおろした。
隠したいわけじゃないけど、少し話せば全部を根掘り葉掘り聞かれそうで怖かった。
自分の口から全てを語るのは、まだつらすぎて。
あれから三年経ったけど、あたしから話した事は一度もない。
高校に入ってからはあの事件のことを知っている人も少なくなったから、変な噂も今はもう回っていない。
同じ中学だった梓は、あたしの家の事情を知っていて、当時噂も聞いているはずなのに、あたしには何も聞かなかった。
それでも一緒にいて笑ってくれる梓に、あたしは何度となく救われていて、その度に、何も言えない後ろめたさを感じる。
梓に感謝しているのに、何も相談できずにいる自分が嫌だった。