狐面の主人


「…あなたは…死ぬの……?」


少女が静かな声で言った。


敵意も優しさも無い。






彼は答えなかった。
何故なら彼は人ではないから。
人の言葉が話せないから。








「…どうして神さまは……誰もたすけては…くれないのかしら……。」


少女が一歩、狐に近寄った。

彼にはもう、少女を追い返す力も残ってはいない。
故に、何をされても、抵抗する術は無かった。





「…わたしの…主さまがね……

あなたたちを殺すの…。



主さまは恐い方だから…
生き物を殺すの……。





この間も、きつねを…。

その前は…くまを…。
その前は…うしを…。

昨日は…奥さまを……。










そして…明日はわたし…。」





そこまで言うと、少女は彼を抱き上げた。

小さな腕で、彼の身体を支え、自分の温もりを分け与えた。


彼は、抵抗しなかった。
いや、出来なかった。

少女の悲しみや、辛さが、その身からよく伝わってきたから。

だが、心地よかった。






「…せめて死ぬ前に……


あなたをすくうことは…
出来ないかしら……。




主さまは…生き物を生かすなと…おっしゃられた……。





…でも……今は、主さまはいない……。










あなたをすくえるのは……わたしだけ…………。












…わたしにも……まもれる…







今日ばかりは……主さまにさからっても……


…良いのかしら…………。」


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