狐面の主人



主君だけに頭を下げさせる訳にはいかぬと、五穂も同じく、頭を垂れた。



だが、




《娘………貴様はよい……。》


妖狐の一匹が、五穂に言った。



五穂は、その妖狐達が気に食わなかった。

どうという理由がある訳ではない。
しかし何故か、腹立たしかったのだ。



「…主様が敬われるのは…下の者にとっても同じこと…。


上げよと申されても、私は決して頭(こうべ)を上げませぬ…。」





すると妖狐は笑ったように鼻を鳴らし、五穂には構わなかった。






《貴様の想い人は強情であるのか…。

めでたい事よ…。


こういう者ほど、裏切るのは、誰よりも早い…。》


炎尾の身体が、ピクリと振るえた。

だがすぐ平静を装い、




「御覧あれ…。

貴方様方の御前にて、婚礼の儀を執り行う所存…。」



襖の奥から、あの能面を被った男達が入って来た。

皆祝酒を持って、妖狐達の側へ行く。


微かに、震えている…。







妖狐全員に酒が行き渡り、最後に二人に、杯が置かれた。


炎尾は五穂に、顔を上げるよう促した。



「五穂…酒は飲めるか…?」


「…炎尾様のためです…。」



二人はゆっくりと、酒を飲み干した。


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