恋する旅のその先に

 どうしてうちの学校の下駄箱には“扉”がついてないんだろう。

 これじゃ彼じゃない誰かに目につくじゃない。

 バレンタインのチョコ。

 クリスマスカード。

 休み明けの年賀状。

 誕生日プレゼント。

 それから──ラブレター。

 直接渡す勇気なんてなくて、住所も知らなくて。

 そんなわたしの、彼へとつながる唯一の架け橋。

 机の引き出しに入れてたんじゃ、何かの拍子にうっかり落ちちゃうかもしれないじゃない?

 けれど、うちの学校の下駄箱には扉がない。

 内気なわたしへの当てつけかしら?

 意地悪なことこの上ないわ。

 毎朝、毎夕、彼の下駄箱の前を通るたびに、こころの中でひっそりとため息。

 じっと見つめるわけにもいかなくて。

 ほんの一瞬だけ横目で見る。

 鞄の隅っこにひそませて久しい手紙はもう、教科書やノートに何度も押し潰された。

 そのたびに、彼への想いはひとまわり大きくなるの。

 
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