美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!
 少年の指がDマイナーのフォルテッシモを成すに合わせ、光の一閃が大気を引き裂きました。
 ズドーンッ!!
 “『雷竜』の口笛”のそれを、大方の人間文明は『雷』と命名しています。
 
 
 「…なるほど」少年は冷笑します。
 十分過ぎる自身の魔力を見、その笑みは確かに満足そうでしたが、一方で痛々しいまでに悲しそうでもありました。
 「じゃあ…せっかくだから、世界でも滅ぼそうか?」
 

 『世界でも滅ぼそうか?』
 少年は確かに、そう言いました。
 確かに、思春期の少年が、鬱屈した少年が、そのように考えるのも不思議ではありません。男とは女性と比較し決定的に『命と疎遠な位置』におり、その中でも15歳というのは生命の温かさから離れた、最も寒々しい離島のようなものかもしれません。
 
 ―――けれど!
 けれど、いくら冗談とはいえ、やはりそのような事は言うべきではないのです。


 「マジメに聞け!」
 このとき博士は、少年の深い闇に戦慄したのです。


 「黙ってくれ! あなたに分かるか?」
 窓の外では天上が狂ったかのように、強烈な落雷が連続しました。


 「…何をだ…?」
 博士は叱咤を躊躇いました。
 少年の闇の片鱗が見えそうだったからです。


 「うまく言えない…」
 少年は頭を抱えて今度は弱々しく訴えます。
 「分からないけど、頭の中で誰かの悲鳴が聞える…っ!」


 「悲鳴だと?」
 博士は何かを考えるように、こめかみに指を当てました。


 「そう悲鳴、子供の悲鳴だ。『やめて、ママ!』って言ってる…」


 ――!!
 博士はその言葉に息を呑みました…!!
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