その夜、


私は意を決して櫂に電話をした。



櫂はもっと詳しいことを聞いてるはず。



私は晴樹さんが、


そんな犯罪に関わっているわけがない、と、


信じたい一心で、


櫂の携帯のコールを聞く。



「…はい」


私からだとわかっているはずなのに、


櫂はやけに暗い声で応答して、


私は即座に、


この話は櫂にも伝わってることを理解した。



「…私。繭」


「うん」


短い櫂の返事に、


とても私からは切り出せなくなった。



電波を通じさせたまま、


お互いに黙ったままでいて、


ようやく櫂が言葉を漏らした。



「…聞いた?兄貴のこと」


答えられずに、沈黙する。


私の沈黙を、


櫂は肯定の意味にとったみたいだった。



「…『横領』って、何だよ。


しかも響子さんを、巻き込んだ可能性があるなんて、


はっきりわかってもいないのに、


そんな説明ってあるかよ…!」


櫂が苦痛な悲鳴を上げた。



私はやっぱり何も言えない。



晴樹さんの失踪に、


十分傷ついていた櫂が、


今度は晴樹さんの『犯罪』の疑惑に、


心を引き裂かれそうな叫びを上げる。



「…ご両親は?」


私がやっとの想いで言葉にすると。



「…狂ったように叫んで、


わめいて、泣いて、


さっき兄貴の常用していた睡眠薬飲ませて、


眠ったとこ」


私は思わず、


睡眠薬?と、聞き返した。



私の問いに、ああ、と、


櫂が我に返ったように、声を潜めた。



「…銀行の営業職として、


ノルマとかきつかったみたいでさ、


兄貴結構早い時期から不眠症で、


睡眠薬を常用してたんだ。


珍しいことじゃないだろ?」


櫂の言葉に、


私は戸惑いながら、うん、と答えた。