広大な霊園は、田舎の山奥にあって、


ゆっくり話せるような場所もなかったから、


私達は櫂の車で、


近くの街まで移動した。



昼時からは時間の経った、


ちょうどお茶の時間にあたったはずなのに、


私と櫂が入った寂れた喫茶店は、


私達の他に、


ほとんど客らしい姿が見えない。



私と櫂には好都合だったけど、


こんなんで営業していけるのか、


余計な心配もしたくなる。



私と櫂は、1番奥まった窓際の席に着くと、


向かい合ってアイスコーヒーを注文して、


何となく黙りこんだ。



櫂はまだ、私の気持ちを量りかねているのか、


喪服の上着を脱ぐと、


手で軽く、顔に風を当てるような動作をして、


窓の外を眺めている。



私が切り出さないと、


話が進まない。


そんな空気を感じた。



「…今、どこにいるの?」


私が最初にそう聞くと、


櫂は窓の外に向けていた顔をこっちに向けて、


少し苦笑した。



「…親父は実家に戻って、


実家の農業を手伝ってるよ。


お袋は…ちょっと神経的に参っててね、


半年前から、親父の実家の方の病院に入院してる。


俺は先月から東京にいるよ。


…ただ、名字は変わってるんだ。


お袋の実家の、


祖母ちゃんの『養子』ってことで、


戸籍が変わってね。


今は『芹沢櫂(せりざわかい)』って言うんだ。


あ、でも、別に普段は今までのままでいいし。


ペンネームだと思って。


…そうでもしないと、


俺も今後の就職に影響しかねないからね。


このままじゃ」


櫂の言葉の持つ重い意味に、


私はゴクッと唾を飲み込んだ。



その時注文したアイスコーヒーが運ばれて、


私と櫂の会話が中断する。



櫂はブラックのままでストローをさして、


私は少しミルクを入れて、


渇いた喉を潤す。