少女のための日本昔話
かぐやひめ
【かぐや姫】

「望月(モチヅキ)さん、付き合ってください」「君、可愛いねー」「望月さん、僕はどう?」「望月さん、」

そうだなー、カワイイお財布が欲しい。靴が欲しい。バッグが欲しい。あとはー

「望月、俺は?」

聞こえてきた声に私は目を見開く。

「・・・臣(オミ)君まで、」

「何が欲しい?望月」

そうだなあー

私は口を歪めて意地悪く臣君の背後、はるか遠くを指で差す。

「あれが欲しい。」
「あれ?」
振り向いた臣君の背中に向けて。

「あれ。」


虹。





「望月さん見て!君が欲しがってたバッグ買ったよ!!」ああ、この前のヒト。

「いらない。」
「えっ」

「そんな高いの受け取れない」
「そんなっ」

「ブランドで喜ぶとでも思ったの?バッカみたい」

立ち尽くすその人が我に返る前に背を向けて歩き出すと、不意に現われた臣君に腕を掴まれた。

「謝れ。」「何でっ…」

「お前の為に苦労して高価な物手に入れたんだろ、謝れ。」

「知らないよ、私あんなの頼んでない!

あんな物が欲しいなんて言ってない!」

「だけどあいつは、望月に似合うと」

「そうだよ、自分でわかってるよ、バカで軽くて派手な私にはお似合いだよ!」


途方にくれたような顔で、臣君が私を見つめる。


「・・・ふざけないでよ、臣君まで・・・」

私は掴まれた手を見て呟く。


私ですら大っ嫌いな私を、好きだとか言わないで!!


「ああそうだな、今のお前にはお似合いだよ。」

冷たい声に、思わず顔を上げた。

「けど俺が好きなんだもん、望月が本当はいいこだって断言する。」

にっこりと笑われて、喉がつかえる。

「・・・ばか」

「ばかはお前だ。」





その数日後、臣君が屋上から転落して亡くなった。


臣君の夢は宇宙飛行士で、
天体観測をしていたらしい。


私宛ての、小さな紙切れを頂いた。

残された宇宙関連の本の中に、挟んであったそうだ。


「ばか望月へ。
虹じゃヒトは渡れないぞ、
俺がお前を月に連れて行くからな!!」

私は月へ、帰れなくなった。




【終】



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