きみと、もう一度

Day 1





 なにかが、おかしい。
 目を覚ますより先に意識が夢から戻って来て、ふとそんなことを感じた。

 空気がいつもよりも冷たくて顔を布団の中に潜らせる。そして、こんなにふかふかの布団だっただろうか、と次に思った。安物の羽毛布団は、太陽の光を浴びさせてもどうも硬いな、と思った記憶がある。なのに今日は買ったばかりのように柔らかく優しい温もりでわたしを包んでくれている。

 そういえば、実家に帰っているんだっけ、わたし。ああ、だからこんなにふわふわなのか。

でも、いつのまにベッドに横になったんだろう。ラグの上でそのまま眠ってしまったような気がしていたけれど。

 まあ、いいか。

 頭だけがやたらと冴えてきたけれど、まだ瞼を持ち上げる気にならない。このままもう少し寝ていてもいいだろう。

今日は姉が帰って来て夜出かけるまで用事はないし、たまには惰眠をむさぼるのもいい。

最近バイトの人数が減って朝から閉店までというハードな日々を過ごしていたから、時間を気にせず過ごせることにほっとする。オマケに実家だ。家の用事は全部母がやってくれる。なんて楽なんだろう。

――ジリリリリリリ、と耳障りなベル音が直ぐ側で突然鳴り響き、反射的に飛び起きた。


「え?」

 目覚ましなんて合わせた覚えはない。

 スマホのアラームかとベッドの上を探そうかと振り返ると、赤い目覚まし時計が七時を指していて、頭上にあるダブルベルが高速で振動しながら音を発していた。

 わたしが使っていた目覚まし時計だ。それは間違いない。けれど……これは引っ越しと同時に時間が合わなくなったからと捨てなかっただろうか。

 ただ、あまりにうるさいので、目の前にある懐かしいそれを手にして、裏のスイッチを切った。

ぴたりと静まった時計をまじまじと観察すると、わたしが中学時代に放り投げて欠けた跡が残っている。

「捨てなかったのかな……」

 首を傾げながら、気のせいか、と元の場所に戻して再び布団の温もりにすがりつく。奈良は盆地で田舎だからなのか、大阪市内よりも寒さがきつい。
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