焦れ恋オフィス

「近いうちにちゃんと話すから。でも、父親の事は絶対に言わないからね」

『っ。芽依!赤ちゃんを一人で産んで育てるなんて大変だぞ』

「一人じゃないし。兄さんが側で支えてくれるんでしょ」

『……まぁ、支えるけどな、それとこれとは』

「なら私は大丈夫。とりあえず、今日はゆっくりとしたいから」

……私はずるい。

兄さんの私への愛情を利用してる気がする。

『体は大丈夫なのか?』

「大丈夫。心配しないで。それから、お願いがあるの」

『なんだ?』

悩み抜いて決めた事だけど、いざ実行に移すとなったらやっぱり躊躇してしまう。

でも。

「私、来週いっぱいで会社を辞める。で、土曜には引っ越そうと思うから、その手配をお願いしたいの」

一気に話した。

もう、後戻りできない。

「無茶なのはわかるけど、兄さんならできるでしょ?」

ね、高橋専務。

だって、次期社長だし。

そして、私は社長の娘だから。

最初で最後のわがまま。

社長の娘だという立場を利用したわがままを言う事を。

今回は兄さんに、聞いて欲しい。

そして、ごめんね。

夏基。
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