この世で一番大切なもの
俺はまた片っ端から女に電話をかけた。

営業だと全く匂わせない会話をする。

好きでもないブサイクな女との長話。

これほど苦痛なものはなかった。

さりげなく会話の中でクレジットカードを持っているか聞く。

カードを持っていないと言った女の電話は早々に終わらせる。

レイヤが言うにはカードを持っている女は、いつ万が一の時の為サイフに入れっぱなしらしい。

だから電話でいちいちカード持ってきてなどと言わなくていいとのこと。

「なんか話してて楽しくなっちゃった。今日オゴリでいいからきてよ」

俺はそう自然に言った。

「えっ、マジ!ほんとにいいの?」

「いいよ。どうせ俺の売り上げになるし。彼女なんだから気にすんなよ」

次から次に思ってもいない上手い言葉が出てきた。

まるで生粋の詐欺師になっている気分だった。

いや、詐欺師だ。

俺は明白に女を騙そうとしている。

ホストとは肩書きだけの詐欺師だった。

「うれしい。いつもリュージ忙しくて中々逢えないし。逢えても少しだけだし。ほんと今日逢えるの夢みたい。ありがとう」

簡単に女は騙された。

俺は騙しておいて、なんてバカな女なんだろうと思った。

自分にか、女にか、分からないが吐き気をもよおした。

どちらの存在もとても醜く、とても愚かな存在に思えてならなかった。

電話を切る。







< 21 / 35 >

この作品をシェア

pagetop