この世で一番大切なもの
「まま、座って」

ソファーに案内される。

「夏っていうから。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「かっこいいね。歌舞伎役者みたいな顔してるじゃん」

俺は昔からそう言われる。

今時の外人風の顔立ちではなく、昔のイケメンのような感じだった。

「スーツこれでいい?ここで着替えちゃっていいからさ」

そう言われホスト独特の細身のスーツを差し出された

着てみるとちょうどいい。

鏡に映った姿を見て、自分でカッコイイと思ってしまうぐらい見違えた。

「それでいいね」

「はい」

「まあ、今日は気楽にやってよ。ユウタと一緒に席回ってもらうからさ。ユウタが教えてくれるから」

「あの履歴書持ってきたんですけど」

「ああ、ありがとう。一応受け取っておくよ」

いい加減な面接というか説明だった。

今まで受けてきた、昼間の仕事とは明らかに違う。

「名前決めてる?」

夏が聞いてくる。

「いや・・・」

そう言えば何も考えていなかった。

「決めてないみたいだね。本名のリュージでいいんじゃない?ホストっぽい名前だしさ」

「はい」

「じゃ、始まるまであと一時間ぐらいあるから、くつろいで待っててよ」

そう言って夏は離れていった。

店内にはクラブでかかるような耳の休まらない音楽が流れる。

店内を見る。

ソファーに座り携帯をいじりつつ食事している人間や、黙々と掃除している人間がいる。

ユウタはモップで掃除している。

おそらく新人などは掃除をするのだろう。

俺の人生の新たなスタート。

刑務所などという最底辺の場所とは違う華やかな世界。

営業開始までもうすぐだ。









< 8 / 35 >

この作品をシェア

pagetop