Symphony V
「家を…出てくるために、置いてあったのをちょっと借りてきました」

「ふむ。では君は…警察官ではないということだね?」

「は…い」

全身から、汗が吹き出てくる。恐怖が唯を支配する。

「さて。君は一人でちゃんと来たようだね」

男に言われて、心底それを後悔した。


ちゃんと、誰かに言っておくべきだったかも。


鈍い光を放つナイフに、泣きそうなくらいの恐怖を覚えながらも、唯は必死で言葉を発した。

「何で…なんで私達家族が狙われたんですか」

唯の言葉を聞いた男はくくっと小さく笑った。

「君は、僕のことを聞いたんだろう?だったらわかるはずだ」

その男の言葉に、唯は少し顔を歪めた。

「人に殺しの依頼をされるほど、恨まれてるなんて…」

そう唯が呟いたとき、男はおかしそうに言った。

「そうだね、君の両親は恨まれていたわけじゃぁない」

「え?」

「ただ、少し、邪魔だったみたいだね」

男の言葉に、唯は絶句した。

「ちなみに君は、恨まれてもいたようだね」

「え?」

思い当たる節がまったく見当たらない。わけがわからず混乱していると、男が耳元で小さく囁いた。

「君の殺しの依頼主は1人じゃないんだよ」

一瞬、目の前が真っ暗になった気がした。
< 109 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop