硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
花瀬 日和 12歳
とうとうやってきた、合格発表の日

「日和ー!用意はできたのー?」

母が、一階から声をかけたので、着替えを済ませた私は、階段を降りた。

母は、真っ白なスーツを着て、玄関の鏡を見ながら、イヤリングをはめていた。
降りてきた私に気付く。

「あ、日和。返事くらいしなさいよ。用意、できたの?」

「うん、できた…」

私の返事に、母は、じっと私を見る。

「この頃、変ね。返事をしないなんてなかったのに…。今日は、浮かない顔?緊張してるの?珍しい…」

母は、そう言うと、自分の足元に目を落とし、ヒールの高いゴールドの靴へと足をおろした。

私は、母の足元を、じっと見つめていた。

「何してるの。行きますよ」

「あ…、はい」

私は、素早く靴を履き、母と玄関を後にした。



母の運転する真っ赤なオープンカーで、受験結果を見るために、受験した中学校へ向かう。

「大丈夫よ。緊張なんてしなくても、貴方は合格してるわ。今まで、試験に落ちた事はないでしょ」

母は、運転しながら、満面の笑顔で私に語りかけていた。

私は、別に、緊張しているわけではなかったが…



車は、中学校へと着いた。
もう既に、多くの学生が親御さんとともに発表を見に来ていて、車を見るなり、道をあける。
私を知っている子達が、私の方を笑顔で見つめたり、会釈をしたりした。

「日和、合格してるんだわ。皆が貴方を見る、ほら、尊敬の眼差し」

母は、上機嫌で、そして、いつものように、車で中へと入り込む勢いだった。

「お母さん、中に入るのは遠慮なさって。ほら、皆さん避けてくれてる。申し訳ないわ」

「あら、そうねぇ…。わかったわ」

母は、私に笑顔を向け、別の入口から入り、駐車場に車を停めた。

「さぁ、見に行きましょう」

母は、軽やかに私に声をかけ、私達は、車を降りて、発表掲示板へと、ゆっくりと向かった。
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