硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

初めての出来事

中学校へ入学して、初めての日曜日。

天気も良く、私は、図書館へ出かける事にした。

友達と、現地で会う約束をして。


私は、軽やかにスニーカーを履いた。

「行ってきまーす」

「一人で行けるのー?」

母が、キッチンから尋ねた。

「うん、大丈夫ー」

「そう。気を付けて」

「はーい、行ってきまーす」

私は、ジーンズとTシャツという動きやすい格好で出かけた。



明るい太陽の光の中、緑の木々が活き活きとしている。

私は、そんな景色を楽しみながら、図書館へと歩いていた。


ふと、なんだかいつもと違う事に気づく。

【ん?…髪は、いつもポニーテールだけど、今日は、敢えて結ばなかった。だから髪じゃない…ん?なんか違うけど何だ?………】


「あ…」


私は、眼鏡をはめるのを忘れた事に気づく。


「…取りに戻るのも………。まっ、今日はいいや」

私は、仕方ないと諦めて、図書館へと歩きだした。

なんだか、清々しい気分だった。




暫く歩いていると、誰かの視線を感じた。

私は、敢えて気づかないふりをした。
そして、それを悟られたくはなく、普段と同じように歩く。

横断歩道に差し掛かり、信号が赤だったので、私は立ち止まった。

すると、視線の主がこちらへ近づいてくるのを視野で感じた。
私は、敢えて見ないようにしていたのだが、その人は、私の傍に来て、声をかけてきた。

「君、綺麗だね。何歳?」

その声に、私は、驚いた。

あの声と、同じ声。

受験勉強をしていた夜中に、突然聞こえた
『お疲れ様』

入学式の日、桜の木を見上げて涙が出てしまった時の
『泣かないで』

あの優しい声と全く同じ。

私は、目を見開いて、その人を見た。

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