硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

自分

私は立ち尽くして、暫く、名刺を見つめていた。

名刺に書いてある名前を見つめ、黙読する。

【七海…龍星…。凄い名前…。こんな名前の人、いるんだ。芸能人みたい】

そして、名前の横に書いてある文字を読んだ。

「株式会社actress代表………?」

【代表?…アクトレス?…アクトレスって、日本語で女優、だよね………?…】

私は、心の中で呟き、一人、首を傾げる。


突然、音楽が鳴った。

私は、その音にびっくりしてしまった。

音楽は、携帯の着信音だった。

【あぁ、携帯が鳴ったのか】

私は我に返り、バックから携帯を取り出す。

着信を見ると、図書館で待ち合わせをしている、友達の矢吹 絵里菜からだった。

「もしもし」

『日和ー、遅いよー今どこ?』

「ごめん。今向かってる」

『もう、何かあったのかと思ったじゃない』

「ごめんごめん、急いで行…」

私は、言葉を途中でやめて、ふと、考え事をした。

『もしもしー?もしもーし』

「あっごめん、急用を思い出した!」

『えーっ!?』

「ごめん!大事な急用を思い出して。この穴埋めは、必ずするから!ほんと、今日はごめん」

『わかった…』

「ごめん」

『じゃあ、また今度ね』

「うん。また今度」

私は、電話を切ると、再び名刺を見つめた。

そして、落ち着ける場所を探した。

近くを見渡すと、街の一角に、石造りの椅子の置かれた緑道があった。

私は、その場所へと歩き、石造りの椅子に腰をおろした。

見上げると、木々の隙間から太陽の光がこぼれている。

私は、名刺を手に、そっと一回、ゆっくりと深呼吸をした。

そして、

携帯を開き、名刺に書かれてある電話番号を、ひとつずつ押した。

番号を押し終えて、そっと、携帯を耳に当てる。

呼び出し音が、鳴った。

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