腐ったこの世界で
Ⅲ・迷路の入り口

*夢の終わり



鉛のような重りを引きずっているようなダルさで目が覚めた。目を開ければ日はすっかり昇っていて、困ったような顔をしたクレアが目の前に居た。

「……あれ?」
「おはようございます。昨晩はずいぶんとお疲れになったみたいですね」

クレアに言われてようやく寝惚けた頭が動き始めた。そうだ。昨日は伯爵に連れられて舞踏会に連れられたんだ。

「あたし……?」
「アリアさまはお疲れになったのか、帰りの馬車の中でお休みになってしまったんですよ」

徐々に思い出してきた。昨日、伯爵に連れられるままバルコニーに出たあたしは伯爵に聞かれたんだ。何があったんだ、って。
――だけどあたしは。

『何もありませんよ?』

見え透いた嘘をついた。当然、伯爵も眉を潜めて疑わしげにあたしを見た。だけどあたしは彼に何も言わなかった。

『……そう。それならいいんだ』

結局、伯爵もそれ以上は追及してこなかった。それからあたしたちは伯爵家の馬車で帰ってきたんだ。あたしはその途中で寝ちゃったけど。
昨日の舞踏会は夢のような出来事で、やっぱり場違いだなって思った。行ってみて、その思いは強くなった。
あそかはやっぱり生粋の紳士・淑女が行く場所で、あたしみたいなのはどんなに綺麗に着飾っても浮いてしまうもの。彼らはそれを敏感に感じ取る。

「もうお昼も過ぎてしまいましたが、何かお食べになりますか?」
「うん。……ううん、やっぱりいいや。着替えるね」

クローゼットの中から比較的軽装のルームドレスを選び、袖を通す。ご飯をいらない、と言ったからか、イリスが紅茶の用意をしてくれた。
蜂蜜入りの紅茶はまろやかで甘く、とっても飲みやすい。これは密かにお気に入りで、それを知ったイリスがよく作ってくれるものだ。

「何も食べないのはよくないですわ。スコーンでもお持ちします」

イリスはそう言って部屋から出ていった。それと入れ替わりで伯爵が入ってくる。


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